リコミンカ~暮らしの提案型古民家情報提案サービスリコミンカ~暮らしの提案型古民家情報提案サービス



こ れ く ら い も 、い い く ら し 。

琴屋

写真・・・ayako mogi  文・・・平松 克啓

森のようちえんまんまる/田舎暮らし/淡路
 
File17
 
青木 将幸 Aoki Masayuki
1976年生まれ。熊野出身。
環境NGOに関わる傍ら「それぞれの持ち味が発揮される組織づくり」に関心をよせる。95年よりNPO向けの組織運営トレーニングの開発とファシリテーションに関わる。企画会社ワークショップ・ミューで修行期を過ごした後、2003年に青木将幸ファシリテーター事務所を設立。以来、毎年100回ほどのペースで会議・ワークショップ・参加体験型研修の進行役をつとめている。2012年より拠点を東京から淡路島に移し、国生み伝説のある島から日本中に出かける日々を送っている。NPO法人淡路島アートセンターに関わり「瓦の音楽プロジェクト」を担当するなかで、だんだん瓦に詳しくなっている。古い瓦と古い家が好き。


青木 京  Aoki Kyo
1973年、兵庫県甲子園生まれ。
親の子育て信条のもと、生後2ヶ月で大分県湯布院へ、その後8歳で淡路島津井へ。高校卒業後、津井を離れる。東京・岐阜・山梨・山口・北九州・東京で合計20年。その間、建築設計における植物の配置計画や、環境教育や野外教育の仕事などに就く。2012年4月、家族と一緒に津井に戻る。草木や空など自然のあれこれ、建物や設計にまつわるあれこれ、暮らしのあれこれが好き。今は、やることが尽きない琴屋のあれこれに手をつけている時間が楽しくて仕方がない。一緒に琴屋を楽しんでくれる方、絶賛募集中。 

津井の家「琴屋」
津井の家「琴屋」FB

1,琴屋との出会い

南あわじ市は津井という瓦のまちにある「琴屋」を管理運営されている青木将幸・京夫妻を訪ねた。琴屋は青木家の自宅のテラスから海のほうを見ると、眼下に広がる木々や瓦工場、瓦屋根のなかに溶け込むように佇んでいるのが小さく確認できる。
小雨の降る中、青木家から少し坂を下って行ったところで、道沿いまで京さんが出迎えてくれた。琴屋では、「つばくろの会」の皆さんがひとしきり楽しんだ後という様子で家の中でゆっくりとした時間を過ごしていた。ご主人の青木将幸さんはお昼寝中。
ゆっくり流れる時間に突如お邪魔して申し訳ありませんでした!
「琴屋」は瓦のまち津井の川尻谷という場所にある。11代にわたり津井の庄屋を務めた古東家の当主、古東領左衛門ゆかりの家だという。古東領左衛門さんについてはそれだけで物語が作れるほどの人物で、詳しく知りたい方は、是非将幸さんに。ゆかりのある古東領左衛門さんのニックネーム「琴屋」にちなんで、この古民家も「琴屋」と名付けられたそうだ。
 琴屋との出会いは古い。津井が実家でもある京さんは、子どものころからこの家のことが気になっていたそう。いったん淡路島から離れていた京さんはご主人の将幸さんとともに淡路島に帰ってくることになる。しばらくして、主を失ってしまった琴屋と再会した。
「この家をお借りできないだろうか」
そんな思いがふつふつとわいてきたという。

2,琴屋との格闘

2015年1月、NPO法人淡路島アートセンターが進める「瓦の音楽プロジェクト」がきっかけで、近隣の方々の仲介をいただきお借りすることになった。当初、徐々に植物に覆われて長屋門から母屋が見えないような状態だったという。野茨、葛などつる系の植物もまるで木と見紛うような太さにまで成長し、まずはそれらの伐採作業から始まった。
家の中の状況もなかなかのもの。昔ながらの屋根の葺き方をしているので屋根瓦の下地には土が使われている。その土が長い年月をかけて床に降り積もり、当初床がどんな仕上げかわからないところもあったそうだ。「毎日8時間でも掃除できる」という京さんの性格も手伝って、毎日毎日たのしく掃除の日々。土埃を払い、新しく床板や畳を発見する。燻製で使っている引き出しや庭に転がっている石臼など、まるで宝探しのようにいろんなものを発掘、発見する日々だったという。
しかし屋根の土の問題はいつまでも消えなかった。いくら掃除をしても土埃が止まることはない。多くの方の協力のもと、意を決して屋根の修繕にあたる。ここでプロの力を借りることになる。
琴屋を修繕するにあたり、なるべく100年前の姿に戻していこうと方針を決めたという。
使える瓦と使えない瓦をきちんと選別し、なるべく新しいものを使わなかった。棟の部分の熨斗瓦も、その当時行われていたように、本葺きの平瓦を割って使っている。琴屋の棟をよく見るとうねりがある。自然な美しさがそこにはある。
ようやく屋根からの土埃がおさまり、本格的に建物内の掃除にかかる。毎日、毎日、拭き掃除をし、いろんな人に手伝ってもらいながら徐々に使えるようになってきたところだという。

3,暮らしにあった家

琴屋は大正元年くらいの建物で築約100年だそうだ。少しずつ手を加えているが、基本的にそのころの状態に戻してあげているだけ。埃をはらい、これから使うるものとそうでないものに整理して、近年の生活のために付け加えられた電気やネットの配線を撤去してというふうに。琴屋にはいわゆるライフラインと呼ばれる、水道、ガス、電気は繋がっていない。その代り、井戸があり、炭があり、太陽とともに暮らす。
「昔の家は基本的な家の仕様が、水をまいたり、薪や炭をつかっても大丈夫なつくりになっている」と将幸さん。
家の作りは、生活のスタイルに合わせた作りになっている。現代的な家の作りは、都市的な生活にはとても使いやすく、便利にできている。様々な行事は家の外で行われ、トイレ、キッチン、風呂は下水につながれ自分たちで処理することはなく清潔に保たれ、ガスや電気はボタン一つで調理が行われお湯が沸かされる。とても便利でありがたい。
その反面、いろいろな自由を奪っているともいえるかもしれない。現代的な作りをした家で、薪で火をおこしたり、燻製をしたり、井戸水を掛け合ったり、どろどろになって遊んだり、と気軽にはできない。建物自体も、広い敷地のなかに、長屋門があり、重厚な瓦屋根の母屋がある。全体的にどこか歪みがあって、波打っていて、とても自然である。
すべてを昔の暮らしに戻すのは無理が生じるが、自然に寄り添った暮らし方を少し見習い、もう少し自由を取り戻してもいいじゃないだろうかと考えさせられる。

4,琴屋と遊ぶ

私たちが取材で訪ねた日は、「つばくろ会」の皆さんが集まっている日だった。つばくろ会は、大人も子どもも一緒になって淡路島の身近な海や野山、広場などを使って、遊ぶ会。その日のやりたいことをはじめにみんなで話し合って決めるという。炭の火をおこし、燻製をし、なんだか上機嫌に飲んでいる人もいる。ピザ窯は敷地から掘り起こした耐火煉瓦を積み上げられたもの。さすが、瓦のまちならでは。サーカスのピエロのように、電線を巻いていたものに子どもが乗って遊んでいる。「京ちゃんが欲しいっていうと思って置いといた」という近所の電気屋さんから譲り受けたもの。
琴屋では、こう使わないといけない、こう遊びなさいという決まりはない。現代的な家で遊ぶよりも、より自由で、より自然に近い。
子どもたちも最初からそういう琴屋に馴染めたわけではなかった。当初は、どうしたらいいの?なにしたらいいの?という感じだったという。回数を重ねて、ようやく自分で七輪に火をつけて、井戸から水を汲んできて、それぞれがやりたいことを自分たちでやるようになってきた。薪を割るのに鉈を使うのだが、クリスマスプレゼントは鉈をもらうんだという強者まで現れるようになったそうだ。
このほかにも様々な人たちに使ってもらっている。大切な会議であったり、馬を使ったワークショップ、来春ごろには瓦作家さんたちの展示会が計画されているという。地域の人、地域に来た人、と遊べる場所にしていきたいと話す。

5,すまない家

「すまへん家になにしょんのなぁ!」近所のおじさんによく言われるそう。将幸さん曰く、この家は別荘であり、おもちゃである。
そんなこともありなんだと、急に気軽になる。住むっていうことを考えなければ、なんだか一気に自由に気軽になれる。青木夫妻にとって琴屋は所有じゃなく共有に近い感覚なのかもしれない。いろんな人たちとイベントや遊び、事業の一部としてここを使用している。メンテナンスさえも遊びに取り入れ楽しみながら行っている。
「遊びとか勉強とか家事とか仕事とか育児とか自由とか休憩とか琴屋で過ごしてるとそういうことたちの境界がなくなる。例えば、木育とか食育とかも混ざり合って一緒に進んでるって感じ。そういうのがいいなぁって。」
琴屋は特別な何かをするための場所ではない。普段の暮らしや遊びの延長上にある。そして、古くて新しい関係性がここにはあるような気がする。パブリックとプライベートの間のような新しい関係性を、琴屋という場所を通して青木さんたちが作りあげている。今回のコミンカーは「暮らし」とは少し離れるかもしれないが、「暮らし」を見直し、より深くするための場所として、新しい古民家の可能性を示してくれている。

コ ミ ン カ - 、 い い 感 じ 。

淡路里山を未来につなぐ会淡路里山を未来につなぐ会
 2017.2.17

淡路里山を未来につなぐ会淡路里山を未来につなぐ会
 2016.12.1

琴屋琴屋
 2016.11.1

森のようちえん まんまる森のようちえん まんまる
2016.10.1

森果樹園森果樹園
2016.9.1

あんあん
2014.10.22

おのころハウス 灰谷おのころハウス 灰谷
2014.02.06

花野花野
2014.01.04


岡本岡本
2013.10.22

西沢西沢
2013.07.01
 
kiyookakiyooka
2013.03.03

kitajimakitajima
2013.02.03
 
umasakiumasaki
2013.01.03

ふくカフェふくカフェ
2012.12.01

あわじ花の歳時記園あわじ花の歳時記園
2012.11.01

山田屋山田屋
2012.10.02

菜音菜音
2012.08.08

三井敦史三井敦史
2012.07.01

橘 真橘 真
2012.06.01